コンプレッサーの”アタックの解釈”が2種類あって困難
コンプレッサーにある「アタック」という設定値。
僕はスレッショルドを超えてから、圧縮を開始するまでの時間だと解釈していました。というのも、そう説明している雑誌、専門書が存在するからです。
もう一つの解釈があります。それはスレッショルド値を超えてから設定した圧縮値までに到達する時間がアタック値。という解釈。
どちらが正しいのか気になったので、手元にあるソフトで検証してみました。
解釈1
スレッショルド値を超えてから、圧縮を開始するまでの時間。
よって、スレッショルド値を超えてから設定したアタック値までの時間は圧縮しない。
僕の今の解釈はこの解釈です。
解釈2
スレッショルド値を超えてから、設定したレシオ値に到達するまでの時間。
よって、音がスレッショルド値を超えたら圧縮自体はすぐにする。
雑誌や専門書によってアタックの解釈が違う(困難)
ある録音系雑誌Aでコンプの特集をした時の記事。
「音が鳴って スレッショルドの値を超えてからコンプがかかり始まるまでの時間を設定するパラメーター」
この解説は解釈1に当たると思う。
ある録音系雑誌Bでコンプの特集をした時の記事。
「スレッショルドを超えた入力信号が、どのくらいの時間で定められた圧縮率に到達するかを設定する」
この解説は解釈2ですね。
ある専門書 その1
「スレッショルドレベルを超えた信号にコンプがかかり始めるまでの時間を決定。
ここを速めに設定すれば、原音に対してすぐにコンプがかかる。
遅く設定すれば、原音のアタックが通過した後にコンプがかかる。」
解釈1です。
ある専門書 その2
「スレッショルドレベルを超えた信号にコンプレッションがかかり始める時間を決める。」
「圧縮が始まるまでにはライムラグがある。そのタイムラグをアタックタイムと呼ぶ。」
解釈1だと思います。
もしかして機材やソフトによって違うのかも?
という訳で、今度は自分が持っているコンプレッサー(プラグイン)のアタックの解説を比べてみました。(全てcakewalk社SONAR付属のエフェクトです。)
VC-64 Vintage Channel
「スレッショルドレベルを超えてから、コンプレッションが始まるまでの時間を調整します。このタイムより短いピークに対しては、コンプレッションされません。」
はっきりとコンプレッションされないと書かれています。解釈1です。
Sonitus:fx Compressor
「入力信号がスレッショルドレベルを超えてから、完全にコンプレッサーがかかるまでの時間を調整します。遅いアタックの設定を使うと、ゆっくりとコンプレッサーがかかるので、音のアタックの部分にはコンプレッサーがかかりません。」
この説明はどちらにも取れそうだけど、おそらく解釈2。「完全にコンプレッサーがかかるまでの時間」の部分だけ読むと完全=設定したレシオ値の事なので解釈2。最後の「音のアタックの部分にはコンプレッサーがかかりません。」ここだけ読むと解釈1なんだけど、最後はおそらく「かかりません」じゃなくて「少ししかかかりません」って意味だと思う。
PC76 U-Type Channelコンプレッサー & PC4K S-Typeバス・コンプレッサーモジュール
「入力信号のレベルがスレッショルドに達してから、コンプレッサーがそれに反応するまでの時間を調整します。アタックの設定を速くすると、圧縮は瞬間的になります。アタックの設定を遅くすると、圧縮は徐々に増加」
解釈2だけど、最後までちゃんと読まないと解釈1にも取れる。というか、矛盾してるような気もする解説。
ここで気になるのは、ここに上げたオリジナルのマニュアルは英語で、ここに記したのは日本語に翻訳されたマニュアルだという事だけど、僕は英語が苦手なので実際に波形で確認する事にしました。
実際の動きを検証
・音源=-10dBのsine wave 長さは2000ms(2秒)です。
各コンプレッサーの設定
・アタック= 400ms 縦線のカーソル位置が400msになります。
・スレッショルド= -20
・レシオ=各エフェクトの最大値
Sonitus:fx Compressor
最小音量の18dBまで1800msかかりました。
400msまでは急激に圧縮がかかり、その後ゆるやかに圧縮がかかります。
概ね説明書通りだと思います。スレッショルド値を超えた音は400msかけて設定したレシオ値まで圧縮されるという事です。マニュアル通り解釈2です。
Kjaerhus Audio VC-64 Vintage Channel(VCAモード)
次に「アタック設定値までは圧縮をしない」と書いてあったVC-64をテストしました。
いきなり圧縮始めてます。挙動は1000ms近くかけて設定値近くまで圧縮しましたが音源が切れるまでゆっくり減少を続けてました。
マニュアルは解釈1ですが、挙動は解釈2です。マニュアルのオリジナルは英語なので、オリジナルにはどう書かれているの気になります。
7/16 追記
友人に翻訳をしてもらった所、正しい翻訳は
「コンプレッサ-が効果的にコンプレッション(圧縮)するために必要とされる時間。アタックタイムより短いピークは、継続的な信号レベルほどコンプレッションされません。」だそうです。つまり解釈2という事になります。
CAKEWALK PC76 U-Type
最も遅いアタック値が1.2msで、他に比べて速すぎると感じたので実験対象から外しました。
CAKEWALK PC4K S-Type
こちらももっとも遅いアタック値が30msだったのですが、76に比べてまだ調べやすいと思ったので検証しました。よって設定アタック値は30msです。
写真を拡大するとわかるのですが、最初から圧縮を開始し設定値(レシオ=10)までに30msほどかけて圧縮をかけます。解釈その2です。
TDR Feedback Compressor Ⅱ
なんでこういう形になるのかわからないけど 解釈2
NOMAD FACTORY Analog Compressor CPS2S
アタック設定値は397.2ms(400に設定出来なかった。)200msまで急激に圧縮し、その後400ms付近までゆるやかに圧縮。解釈2です。
実験した感想
・実験したコンプの解釈は全て解釈2。
4社の物を試したけど、どれもアタックの設定値はスレッショルドを超えてから設定した圧縮値までに到達する時間でした。(設定値と実際の差はあったけど)
・雑誌や専門誌では解釈1もあるので、もしかしたら実際に解釈1の物があるかもしれない。
・自分の解釈の仕方がおかしいだけで、どれも解釈2の事を言ってるのかも知れない。
・実際には解釈1の物は存在しなくて、間違った解釈で広まっているのかもしれない。また、それらを検証していない人たちが専門書や雑誌の記事を書いているかも知れない。というあくまで可能性。
おしまい。